「チラシ」は広告・宣伝のために配る印刷物で「散らすもの」が語源となっています。大量に印刷されて「撒き散らすもの」として古くから利用されてきました。現在は「フライヤー」と耳にする事が多くなりました。「フライヤー(flyer=飛行家)」はかつて軽飛行機や飛行船からばら撒かれていた事が語源になっています。
※印刷媒体で混同されて使われがちなものに「リーフレット」や「パンフレット」があります。1枚の紙を折って複数のページを作る印刷物を「リーフレット」といい、二つ折り・三つ折り・蛇腹折などがあります。また、複数のページを中とじ(中央をホチキスや針金でとじる)で製本する印刷物をパンフレットといい、「表紙を除いて5ページから48ページまでのもの」と定義されています。
広告の媒体がTV-CMにとって代わられる80年代まで、グラフィックデザインの主役はポスターでした。カレンダーやパンフレットなどのデザインも目立っていましたが、「チラシ」はあまり表に出てきていません。デザイナーが仕事歴を聞かれた場合、ポスターやパンフレット、雑誌のエディトリアルを例に挙げてもチラシを口にする事は多くありませんでした。この事は「チラシ」のデザインが誇れる仕事とは思われていなかった事を表しています。
しかし、今も昔も仕事の量において、また目にする機会において最も多いのは「チラシ」ではないでしょうか。デザイナーたちの多くは少なからずその制作を経験していると思われます。私も代表作を問われれば書籍のデザインを挙げると思います。しかし、一方で「チラシ」をデザインの難易度というか、必要な知恵と技術そして労力はポスターや装幀などとは変わらぬものだと思います
私の場合、「チラシ」のデザインの仕事はめっきり減ってしまいましたが、今回は比較的新しいものの中からクライアントの了解を得てその制作風景をレポートします。
此経難持坂(しきょうなんじざか)
4月になって菩提寺の養源寺さんから電話があり、南部宗務所(日蓮宗東京南部宗務所)さんの仕事をいただきました。
南部宗務所は池上本門寺内にあります。依頼の電話を終えると私の頭の中を「池上本門寺」という文字が駆け巡り、TVドラマ『鬼平犯科帳』の1シーンが蘇りました。
平蔵の妻・久栄(多岐川裕美さん)が「本門寺さんにお参りに行った帰りに」何かのお土産を買ってきたというような台詞(せりふ)でした。それがどのような場面だったのかを調べてみたのですが、残念ながら見つける事はできませんでした。その代わりに「本門寺暮雪」という回(話)があった事を知りました。録画したDISCを調べると第2シリーズの第9話がそれでした。
「池上本門寺」は大田区池上にある日蓮宗大本山のひとつで、日蓮聖人終焉の地です。ドラマ(『鬼平犯科帳』)で舞台になっている階段は「此経難持坂(しきょうなんじざか)」と言います。池上本門寺の表参道96段の石段坂の事です。
「法華経」見宝塔品(けんほうとうぼん)の詩句が96文字である事から石段を96段とし,詩句の文頭の文字「此経難持」をとって坂の名としています。
※見宝塔品の詩句(宝塔偈)は「此經難持しきょうなんじ 若暫持者にゃくざんじーしゃ 我即歡喜がそくかんぎ 諸佛亦然しょぶつやくねん …」で始まる96文字の偈文です。
「末法の世に法華経を守る事の困難さを、石段を上る事の苦しさと対比させ、経文を称えながら上れば自然に上れる 」といわれています。
石段は、慶長(けいちょう)年間(1596年〜1615年)に法華経信者であった加藤清正が寄進したものと伝えられています。
このブログを書くにあたって、養源寺の前の住職(利勝上人)に「此経難持坂」の写真をお持ちかどうかを尋ねたところ、新たに撮影してくれるという返事がありました。利勝上人の写真の腕前はプロ並みで、撮影していただけるならこの上ありません。ならば、という事で私は2カットの写真を頼みました。
・下から、「成仏するまであんなに上るのか」と思いながら見上げる坂(階段)。
・上から、這いつくばって懸命に生きる(上る)姿と来し方(参道方面)を見る。
という風な文で、坂の上からと下から見た2カットの写真を依頼しました。すると、
「昔法縁の御長老が小柄な身体を石段につけるように登ってくる姿が印象に残っています。」
というお返事をいただきました。
池波正太郎さんがこのシーンを思いついた池上本門寺の「此経難持坂」は、ロケ地の階段とは違って見上げるほどに急傾斜になっています。若い人でも楽には上れません。利勝上人がご覧になった御長老はお経(お題目)を唱えてらしたでしょうか?
階段をつくった人の思いが時代を超えて利勝上人の眼前に形になって現れていたのかも知れません。
「だんさん」という事
私が本門寺さんに縁を得たのは、水書坊(養源寺敷地内)の月刊『ナーム』の仕事をいただいてからの事でした。その後、母が他界したのを機会に本門寺の末寺である養源寺さんにお墓を建てさせていただき、更に縁が深くなりました。
以降、本門寺さんや南部宗務所さんから、デザイン関係のお手伝いをさせていただくようになり、現在に至っています。
日蓮宗の宗務所は各地にありますが、東京はお寺の数が多いので東西南北の4区に分けられていて、
南地区の南部宗務所は品川区、大田区、目黒区、港区、渋谷区、町田市の6地区を9組に分けて管轄しています。
今回いただいた仕事は「団体参拝」のポスターとチラシの制作でした(後にチラシだけになる)。
本門寺さんや水書坊さんとのお付き合いが始まった頃(昔)、「だんさん」という言葉を度々耳にしました。聞いた時には関西でいう「だんさん(旦那さん)」とイメージが重なりました。が、違います。「団体参拝(だんたいさんぱい)」の事だったんです。字面から、みんなでお参りに行くという事は分かりました。
「みんなでお参り(お詣り)」といえば「お伊勢参り」や「大山詣り」が江戸期にブームになりました。そんな集まりを「講中(こうじゅう)」といったそうです。「団体参拝」はそんなものかと想像しました。
※江戸期以来「講中(こうじゅう)」というのがあります。全国各地のお寺で同じ地域の信仰を共にする仲間の事です。お寺だけではなく、有名なところに「伊勢講(いわゆるお伊勢参り)」というのがあります。伊勢講・神明講は講ごとに積み立てをして、そのお金で代表者が伊勢神宮へ代参に出かけました。
依頼時に住職から聞いた「池上本門寺」や「団体参拝」という言葉から以上のような情景が頭を巡りました。仕事にとって、こうした印象は依頼内容とは無関係のようでもアイディアを出す時やイメージの構築のヒントになります。しばし、そんな想念の中で遊ぶのも大切です。
現在、メールなどでの依頼が多くなりましたが、対面での打ち合わせ(依頼)が「いいものつくりに不可欠である」理由です。
具体的に何の役に立つのかは分かりませんが、打ち合わせで思いついた事や疑問を尋ねたりしていくと、ボンヤリしたイメージが徐々に姿を現わします。実際、この時の私は頭の中で山梨の山々を遠望していました。そして、それが後にメインビジュアルのヒントになっていきます。
チラシをつくる Step:01 〜依頼の内容〜
チラシの主旨は団体参拝の参加者を募るものです。南部宗務所では毎年「団体参拝」を行なっていましたが、このところ「コロナ禍」で実施できていませんでした。今年は規制が無くなり実施の運びとなりました。
「団体参拝(通称「団参」)」は有縁のお寺や聖地などを参拝し、巡るというもので、檀信徒の方や地区内の人たちとの交友会にもなっています。日程は主に日帰りで計画されていますが、一泊する事もあるそうです。
今年は山梨県の身延山にある日蓮宗の総本山「久遠寺(くおんじ)」と日蓮聖人が9年間、生活されたという「御草庵跡(ごそうあんあと)」(久遠寺境内)を巡るものです。
A4判 表・裏 フルカラー印刷 500枚×9ヶ所=4,500枚
裏面のみ8種の差し替えアリ(後、不要になる)
個別梱包 一ヶ所に配送
納品日:6月末頃(後に5月終わり頃に早まる)
提供された資料は、
・バス運行会社が業務用につくった「行程表」
・テキスト:「久遠寺」「御草庵跡」の由来書き
・関連画像10点ほど
でした。
この時、チラシの正式なタイトルはありませんでした。
チラシをつくる Step:02 〜打ち合わせ 素人さんが相手のとき〜
ここでいう「素人さん」とは、日常的にグラフィック(紙)の印刷物に関わる仕事をしていない人くらいの意味です。
チラシはもっとも身近な広告なので、PCが普及した今、プロ以外の誰でもが自分でデザインして印刷までできるようになりました。そのような状況の中で、少しPCの経験のある人がプロと同じ土俵で何かをつくろうとすると、なにがしかの齟齬(そご)が起こる事があります。
例えば、業界の用語。業界で使われる言葉は、制作における認識の深さ、広さが異なる事でその意味に違いがあり、プロの現場でもトラブルの原因にもなっています。依頼者が業界との関係が薄い人であれば、仕事を受ける私たちは、ひとつひとつの言葉を確認しながら内容を汲み取る必要があります。
今回の場合、住職は電話で「ラフ」という言葉を使っています。その際の「ラフ」とはどういう意味だったのでしょうか。
私たちの業界で「ラフ」とは「ラフスケッチ」のことで、今や死語に近くなっています。イメージやアイディアを画用紙などに大まかにスケッチ(手描き)したもののことです。仕上がりと同じ大きさとは限らず、小さくスケッチしたものもありました。
デジタルの時代になって仕事の仕方が変わってしまった現在、手作業でスケッチすることは稀になりました。そんな中でも、手作業の時代に使われていた言葉が使われる事があります。「ラフ」という言葉もそのひとつです。
現在のデザインの現場では、印刷物の制作は最初から終わりまでPCで行われているので、手描きの「ラフスケッチ」で打ち合わせする事はほとんどありません。従って、ここで住職がいう「ラフ」とはモニターで確認できるもの、または簡易印刷(またはプリンター)で印刷して見せる事ができるものという意味に捉えるのが妥当です。
ところがこの時の「ラフ」はそれだけの事ではありませんでした。それは提供されたテキストや画像などを確認した事で分かりました。
提供された画像やテキスト類はそのまま原稿になるものではなかったのです。例えばスケジュールですが、届いたものはバス会社の行程表でした。
いただいた行程表は業務用なので一般の人には分かりにくく、そのまま使用できるものではありませんでした。その他、提供された画像に具体的な指示はなく、「必要なものがあれば揃えます」という事でした。インフォメーションのテキストなどもそのまま使用できるものではありませんでした。
以上の事から、
「テキスト、画像共に「適当と思うもの」を使ってチラシをつくってください。その後に関係者(仲間)と打ち合わせをして、正式なテキストや画像を決定します」
という事だろうと思いました。
ここまで理解して、住職がいう「ラフ」とは、素人が見てもわかるように、これらの素材を使って「団体参拝」の打ち合わせ用の見本(打ち合わせの叩き台)をつくってくださいという事だと推測できたのです。
電話の終わりに、住職から改めてそのような言葉があり、推測に間違いのない事が確認できました。
このように「打ち合わせ」において、プロでない人たちと仕事をする時には、それぞれが置かれている業界で通用している用語を疑いもなく使う場合があるので、言葉の意味をいろいろな角度から確認しつつ話を進める必要があります。
言葉つながりで、今回のチラシとは無関係ですが、素人さんが度々使う言葉に「簡単でいいです」「適当でいいです」というのがあります。相手がプロなので気おくれしていたり、背伸びしていたりして、そのような言葉が出るのかもしれません。長年、そうした場面に出会うたびに割り切れない思いを整えるのに苦労します。
例えば、食事を振る舞ってもらう時に「簡単でいいです」というのは分かります。しかし、折り紙を折ってもらうのに「簡単でいいです」というでしょうか。鶴を簡単に折ってみてください。折り方に手順があって、手順を抜くと鶴にはなりません。
私のものつくりに「簡単につくる」「適当につくる」というつくり方はありません。
私も含めて素人さんは、「思いやり」をそのような言葉にするのが習慣になっているからかもしれませんが、そこには「早く欲しい」「安く仕上げて欲しい」という思いが見え隠れしている事も少なくありません。
そんな理由であるなら、急いでいる時は「急いでください」とか、予算が無いのであれば「安くしてください」「予算があまりありません」などのようにいってくれた方が健康的な関係を築けます。
●チラシのいろいろ 〜団体参拝チラシで重要な事〜
チラシ(散らし)は、主に広告などの伝達手段として用いられる配布用の印刷物の事で、江戸、明治、大正時代には「引き札」といわれていました。現在も広告の中で最も安価で身近な告知方法のひとつなので企業や店舗が気軽につくって配布しています。
例えば、旅行代理店が配布しているチラシでは、旅先、価格、メインビジュアルが最も重要な情報です。「格安フィレンツェ旅行 〜特別大セール今回だけの衝撃価格〜」などとキャッチコピーで格安感を煽(あお)り、画像を使っていかに情緒あふれる素晴らしい所であるかを訴えます。
この場合、キャッチフレーズ(または値引額など)を目立たせる工夫と、魅力的な写真(画像)を探したり、ビジュアルをつくったりして他商品との差別化を図る事がデザイナーの力の見せ所です。家電などの量販店やスーパーのチラシも大同小異で、つまりは他店の商品との差別化、優位性を主張するものです。
しかし団体参拝のチラシはそれらとは少し趣が違っています。目立つ必要はないし、ことさら美しくつくる必要はなく、他との差別化も重要ではありません。大切なのは、
「日蓮さんの生活された所へお参りしませんか」
というメッセージです。企画そのものが他と競うようなものではなく、他と比べようもないオリジリティを備えています。
とはいえ、美しさや他との差別化を強調しなくても必ず備えなければならないものがあります。それは、お寺さんに限らず学校や病院、役所などのデザインでいえる事ですが、「清潔」である事です。
しかしどのようにしたら清潔なデザインができるかは、マニュアルのどこにも書いてありません。技術が洗練された時、少なからず清潔感は表せますが、それだけでは不十分です。技術と同じように「人」として洗練される事が不可欠です。
チラシをつくる Step:03 〜原稿の確認〜
最初に、必要な材料を揃えます。ここでは提供されているものを中心に確認します。
1.タイトル
「身延山団体参拝」。サブタイトルらしきものはあったけれど、これといってタイトルは指示されていません。従って、イベントの趣旨やテキストの文意から私が考えたものです。
2.サブタイトル
「日蓮聖人御入山 身延山開創750年」
3.日時
令和5年10月2日
4.アイキャッチ(のようなもの)
「同行者募集」「参加申し込み方法」。一般に、キャッチフレーズやアイキャッチ(目を引く図形など)を配置しますが、それらしき指示は無かったので私が追加しましたが削除されました。結果、情報が少なくなって清潔感が出しやすくなったので良かったと思います。
5.そのほか必要なテキスト
「主催者:日蓮宗東京都南部宗務所」
主催者の指示はなかったので私が追加しました。
6.メインビジュアル
「御草庵跡」の画像を使用するように指示がありました。提供された数点の画像から1点を選びました。
7.サブビジュアル
「久遠寺」(後、「祖師堂」に変更)。指示はありませんでしたが、この団体参拝での行き先として「久遠寺参拝」も含まれるので、久遠寺の本堂の画像を使う事にしました。(後に「祖師堂」に変更。「久遠寺 本堂」は裏面で使用)
8.由緒、由来などのテキスト
「久遠寺」「御草庵跡」のもの。御草庵跡を中心にした「由来書き」が提供されました。
9.由緒、由来に関連した画像
「御草庵跡(表面の画像を使い回す)」「久遠寺 寺紋」。「久遠寺 寺紋」はネット(久遠寺)から借りて私がつくったもの。「由来書き」の背景に使用。
10.スケジュール
バス会社から提供された「行程表」から必要な情報を抽出。
11.インフォメーション
主催者、注意書き、集合場所の地図、申し込み方法など。
11.インフォメーション
主催者、注意書き、集合場所の地図、申し込み方法など。(集合場所の地図、申し込み書は削除されました)
以上、原稿のチェックでした。ここで行った事はいただいた原稿がそのまま使えるかどうかのチェックや、使えない場合は代わりのテキストを考える、または用意してもらうというような事の確認でした。素人さんが相手の時は、いきなりテキストなどの変更を言葉で伝えても思うようにならない事が多いので、「とりあえずつくってみますので検討してください」などといって、自分の考える文章や画像などの見本を提示するようにしています。そうする事が時間の短縮にもなるからです。
原稿のチェックが終わると、情報のひとつひとつをチラシの表と裏に振り分けていきます。
結果は、上述の1〜7は表(おもて)。8〜11は裏(ウラ)にする事にしました。
原稿の整理(チェック)と同時にデザイン(見た目)は「ああでもない、こうでもない。これがいい」などと考えています。従って、原稿整理を終えるころには、チラシの構想ができあがっているので、いよいよ「表面(ひょうめん)」と「裏面(りめん)」の具体的なビジュアルを構成していきます。
チラシをつくる Step:04 〜表面 メインビジュアルをつくる〜
原稿を整理した結果、表面には「タイトル」「サブタイトル」「日時」「アイキャッチ」「主催者名」「メインビジュアル」「サブビジュアル」を配置する事にしました。(「アイキャッチ」最終的に省かれました。)
ここでは提供された資料を元にして見本をつくりました。見本は通常2〜3点を提出します。しかし、素人さんは迷う人が多く、数点を提示すると、「どれがいいですか」と逆に問い返される事は珍しくありません。なので素人さん相手の時は出来の良いものを1点だけ提出するようにしています。とはいっても依頼者に選んでもらうのも大切な事なので、最近は相手次第ですが2点を提出するようになりました。右か左か、白か黒かという二者択一の方が決めやすいように見受けられます。
というわけで今回も2点を提出しました。しかし2種の制作過程をとりあげると複雑になるので、今回は採用されたものだけをレポートします。
詳細を述べる前に、表面のイメージを整理しておきます。
「メインビジュアル」は全面に「山梨の山々を遠望したもの」と「御草庵跡」の画像を配置する。
「サブビジュアル」は祖師堂の画像を小さめに配置する。
「タイトル」は私のオリジナルフォント(S-SHM)を使用する。
「サブタイトル」ほか、ベーシックなテキストには「小塚ゴシック Pr6N B」を使用する。
最初の打ち合わせで持ったイメージは、
「山梨の山々を遠望したもの」
でした。
残念ながら私は久遠寺に詣でた事はありません。しかし、山梨へは2度ほど訪れているので、その時の記憶を頼りに身延山山頂からの眺望を想像してみました。
提供された画像は団体参拝の目的地である「久遠寺」と「御草庵跡」を中心に何点かありましたが、私のイメージに近いものはありませんでした。そんな中で「久遠寺 本堂」と「御草庵跡」のどちらかをメインにするかを考えました。
お寺の本堂は見慣れた寺院建築で景色としては代わり映えしません。「御草庵跡」の方は私が初めて見るものだし、面白みを感じたので「御草庵跡」をメインの画像に決めました。
とはいっても「御草庵跡」はチラシの「顔」にするには地味でした。そこで、最初にイメージした「山梨の山々を遠望したもの」に沿ったビジュアルにするために、イメージに合った画像を入手して、「御草庵跡」と組み合わせる事にしました。
表(おもて)を「山梨の山々に抱かれた御草庵跡」という一枚絵にするために、「山梨の山々」のレンタル画像を検索して見ました。イメージに近いものを見つけたのですが、残念な事に印象が暗くなりそうで躊躇しました。やはり「団参という旅」を明るくするものが良いと思ったので、適当な材料を探すかつくる事にしました。
●ピンボケのビジュアル
以前、このブログで社会科学や人文科学をテーマにしたデザインは難しいと書いた事がありました。
映画の宣伝であれば主役を配したスチール写真が使えるし、ジュースなどの商品であれば商品に使われている果物を中心にしてイメージを広げられますが、哲学や宗教などのような精神科学になると、モティーフになる形が無いので苦労していたのです。
同じ頃、『ミステリマガジン』の編集長はしばしば「気配」という言葉を口にしていました。「ミステリー」をテーマにしたデザインではナイフや手錠、血痕のような具体的な形で表現したものが沢山あります。それらは分かりやすい形だから多用されているのですが、表現が直接的過ぎてつまらない、「何かが起こりそうな『気配』を表紙にしたいのです」と、編集長はいうのです。結果、浅井慎平さんの写真を使う事になりました。
例えばですが、真っ青な空に真っ白のTシャツが翻っているだけで、何かが起こりそうな、起こっていそうな感じがします。つまり、そこには「気配」が存在しているのです。実際、浅井さんの写真を使った事で、それまでの表紙に比べるとずっと大人っぽい表紙になりました。
哲学書や宗教書で「気配」を表現する。その事がずっとテーマとしてありました。ある日、ひとつの方法を思いつきました。
床に敷いた白い紙の上に、色紙をハサミで切ってばら撒きました。いい具合になった部分はそのまま用紙に貼り付けて、残りもいい形ができるまでばら撒きを繰り返して一枚の図柄にしました。そして、それを撮影したのです。
撮影はカメラマンに依頼しました。普通に撮影するのではありません。カメラマンには「いい具合にボカしてください」と注文しました。
現在は、PC上で簡単にボカす事ができます。「ガウス」というパラメータがあり、0.1ポイント刻みでボカす事ができて、ボケ具合を視認する事ができますが、当時はフィルムカメラでの撮影です。現像を終えるまではボケ具合は見る事ができません。繰り返し試していては時間がかかるし、フィルムや現像代が嵩(かさ)みます。無茶な要求だったかも知れません。
カメラマンはフォーカスリングを小刻みに回して、ひたすら撮影を重ねたそうです。結果、普通の撮影であれば数カットで済むところが、36枚どりのフィルム数本を使っています。その甲斐あって、いい具合にボケたビジュアルができました。それを「気配」といっていいのかどうか分かりませんが、具体的な形のないビジュアルができたのです。
後の事ですが、そのカメラマンが「きちんとピントを合わせるのはポイントが1箇所だけど、ボカすのはポイントが無限にあるので大変でした」と当時を振り返っていました。そして、彼はその経験を活かしたピンボケの写真展を開いたそうです。
「ボカす」という技術は現在では瞬時にできる事ですが、手作業(アナログ)の当時にあってはカメラマンに依頼して撮影してもらうか、印刷所で製版時にボカしてもらうしかありませんでした。どちらにしても業者に依頼しないとできません。つまり、お金と時間がかかるわけです。それより面倒なのは自分が気に入ったボケ具合を手に入れるまで、やり直しを繰り返すといい顔をされません。その点が一番面倒な事でした。
●平面構成(色彩構成)のビジュアル
もう一つの発想を得たのは、書棚に美大受験生時代のテキスト(『アトリエ』という刊行物)を見つけた事がきっかけでした。そこには平面構成(色彩構成)の試験問題に対応する完成図と描き方が掲載されていました。「花」を写生し、光や影、形を単純化して色分け(色と形の構成)したものでした。
紹介したピンボケと平面構成(色彩構成)、ふたつのアイディアが財産となって、その後の仕事を助けてくれました。
今回、ネットで見た「山梨の山並み」の写真を見たとき、平面構成のアイディアから思いついたのです。風景を単純化してパステル画にしようと。会社にパステル画を描いているスタッフがいる事を思い出しました。
パステル画を描いてもらったのは30年以上も前の事です。その間、引っ越しなどをして廃棄しているかもしれないと思いながら連絡をとると、幸いにも保存してあるというので借りる事にしました。山をモティーフにしたパステル画は何点かありましたが、中の一枚がイメージにぴったりの形で描かれていました。
このようにしてメインビジュアルはできましたが実際に、そのまま組み合わせてみると1枚のビジュアルにはなりません。どうしても組み合わせた感が残ってしまうのです。
こういう場合には面と面を直線的に合わせるよりもぼかし(グラデーション)で合成した方が情感が生まれます。グラデーションマスクで上下の画像のつなぎ目がなくなるようにしてみました。
実はこの頃、つなぎ目をボカして画像を合成する方法はPhotshopでは何度も行っていたのですが、Illustratorでは初めての作業でした。マニュアルを見ながらのカット&トライでようやく完成しました。Illustratorを使って「二つの画像を自然に重ねる」方法
やはり、2枚の写真を単純に組み合わせるよりもボカしてつないだ方が、「山々に抱かれた御草庵跡」という一枚絵な感じになりました。
チラシをつくる Step:05 〜表面 タイトルをつくる〜
私の故郷の最寄りの駅は飯塚駅です。JRで博多へ出ようとする時、博多駅の手前に吉塚駅があります。電車が吉塚駅を出てゆっくりと博多方面へ速度を上げていくと右手、東公園内に日蓮上人像が天を衝くばかりに立っています。両親は「ほら」と上人像を指差して、攻めてきた元(げん)軍を神風で追い払った人だよと自分の事のように自慢げに話してくれました。私(福岡に住むもの)にとって日蓮さんはそんな身近な存在なのです。
もうひとつ、日蓮宗に関する思い出があります。私たち団塊の世代はチャンバラ世代ともいえます。最大の娯楽は映画鑑賞で中でも時代劇が子どもの間では大人気でした。その時代劇の中で頻繁に目にするのが編笠に白装束(行衣・ぎょうえ)姿で団扇太鼓(うちわだいこ)を叩きながら列をなして歩く檀信徒の人たちでした。唱題行脚(しょうだいあんぎゃ)というのでしょうか。そんな情景から「日蓮宗」は他宗教に比べていち早く心に刻まれていました。
その行衣の背中や団扇太鼓には「南無妙法蓮華経」という字が書かれています。「ひげ題目」というらしいのですが、子どもの頃からその文字が気になって仕方ありませんでした。ハネたように書いてあるところが「ヒゲ」なのでしょうね。お題目のちょうど真ん中に「法」という字があり、そこから上下左右(四方八方)にハネてあります。法が四方八方あまねく及ぶところを表したものだと聞いています。
メインビジュアルにメドが立った頃、タイトルを考えていました。一般のデザイナーさんであれば「フォントは何にしようか?」と頭を巡らせる事でしょうが、私の場合は自分で「描く」事も選択肢に入れて考えます。この時、「団体参拝」=「行脚」という発想から、時代劇で見た「編笠に白装束(行衣・ぎょうえ)姿で団扇太鼓(うちわだいこ)を叩きながら列をなして歩く檀信徒の人たち」が思い出されて、団扇太鼓に書かれた「ひげ題目」をイメージしました。
幸い、これより前「日蓮上人生誕800年紀」のポスターを依頼されたときにも同じイメージを持ち、「ひげ題目」をアレンジしてタイトルを描きました。今回はその頃よりも技術がこなれているという自負から、タイトルは「描こう」と思い立ちました。
何日間か、「前のものよりもそれらしい形」になるように工夫していました。ところが、宗務所の都合で締め切りがひと月早くなったのです。試行錯誤の時間は無くなりました。完成度が低いものを使いたくないので急遽、予備として考えていたもうひとつの案を採用する事にしました。
人文科学や宗教書の装幀に似合う字体として描いたオリジナル書体S-SHMを使う事にしたのです。そして、そこに歴史感を加味する事にしました。歴史感はIllustratorレータを使ってS-SHMを「かすれ文字」にして表現します。具体的な方法は【Illustrator】かすれた文字やスタンプの作り方を参照。
見本は2点出します。メインビジュアルはA案、B案共に「山梨の山々に抱かれた御草庵跡」を使用します。
A案は「山梨の山々に抱かれた御草庵跡」を強調したものでタイトルは1行。
B案は「身延山 団体参拝」を強調したもの。
つまり、A案ではメインビジュアルとタイトルなど(文字部分)が7:3くらいの割合で紙面を使っているところを、B案では4:6くらいにして、文字での訴求を強めています。
チラシをつくる Step:06 〜表面 サブビジュアルをつくる〜
団参で訪れる主な場所は「御草庵跡」と「久遠寺」の本堂です。「御草庵跡」をメインにしたので「久遠寺 本堂」はサブビジュアルとして、ウラ面で使用する計画で進めていましたが、最終的に小さくても表(おもて)面に入れて旅の目的地である2カ所共に見せる事にしました。(「久遠寺 本堂」の写真は後に「祖師堂」に変更になり、「久遠寺 本堂」の写真は最初の考え通りに裏面に移しました。)
「祖師堂」の写真はタイトル下に楕円形で配置する事にしました。そして、この画像も周りが次第に背景に溶け込むように計画しました。この時もIllustratorの「二つの画像を自然に重ねる」方法を使いました。以下の図は画像を「正円」でマスクして周辺をボカす方法です。
この時、楕円のボケ足に問題がある事に気づいたのです。
画像(写真)の多くは縦横の比率を3:2または4:3にして撮られています。従って、周辺をボカすためのマスク版も多くの場合は楕円が適当だと思われます。
円の周辺をボカす方法についてはネットで調べました。このときちょっとした問題に気付いたのです。多くのマニュアルでは正円でボカしたものを楕円に変形するものだったのです。
正円でボカしたものを楕円に変形すると、一見しただけでは分かりにくいのですが、上下と左右のボケ足の幅に違いができているのです。
私の面倒な性格はこれを受け入れませんでした。なので、楕円の周りを均等幅でボカす方法を探しました。結果、以下のような方法が見つかりました。
楕円の上下左右のボケ足を同じにする方法
1.楕円を描く。この時、線の太さ(線幅)を欲しいボケ足の幅にしておく。
2.パスのアウトライン化を行う。
3.図形を選択して右クリックしプルダウンメニューから「複合パスを解除」を選ぶ。全面が黒くなるが、プレビューしてみると内側に小さな楕円ができている。
4.内側(手前)にできた小さい方の楕円を「白」、外(後ろ側)の楕円を「黒」で塗る。
5.「スムーズカラー」でブレンドする。
以上でマスク版ができます。あとは正円のときと同じように、
6.画像をこのマスク版でマスクする。
以上で周辺が均等幅にボケた楕円の画像ができあがります。
メインのビジュアルとタイトル、サブビジュアルができたところで紙面をつくってみました。デザインはA案とB案の2種類です。
チラシをつくる Step:07 〜裏面 情報の整理〜
このチラシの場合は表面は見せるもの、裏面は読ませるものという風になっています。従って、裏面はいくつかの役割を担った文字情報が配置される事になります。
裏面のようなレイアウト(デザイン)で最初に考えるのは美しさやカッコ良さよりも伝えるべき情報の順序です。建築でいう「生活導線」のようなものです。知ってもらいたい情報の重要度に応じて視線を誘導するようにアイテムを配置します。
このチラシのウラは、ほとんどが文字なので横組みであれば左から右、上から下。縦組みであれば右から左、上から下へ配置します。時々、中央から外側へ配置する事もあります。
文字の大きさも重要度に応じて大小を使い分けます。ただし、文字は大きければ目立つというものではなく、小さくても太い方が視認性が高くなる場合があるので状況に応じた使い分けが大切になります。
最初に計画したウラに入れるべき情報は以下の通り。
1.「久遠寺」「御草庵跡」に関する由来書き
2.スケジュール
3.集合場所の地図(最終的に削除)
4.応募方法 連絡先など
5.主催者
頂いた情報(素材)は行程表(業者用)と地図が1点と由来書きのテキストだけでした。地図はのちにそれぞれの組で用意するというので無くなりました。用意されたものが文字ばかりで少し寂しい紙面になりそうなので、「久遠寺」「御草庵跡」に関する由来書きに対して、関連画像を入れようと思いました。「御草庵跡」の画像はすでに表で使っていますが、文章の隣にあったらリアリティが増すだろうと思い、もう一度「御草庵跡」の画像を置く事にしました。苦肉の策です。
なお、スケジュールに関しては業者から提供された「行程表」から立ち寄り先や参拝地を抜き出して作成しました。
加えて、「由来書き」に歴史感を持たせるために、文章の背景に適当な画像を置こうと思いました。地紋ならぬ「寺紋(久遠寺)」を並べて書院の襖(ふすま)のようなものをつくり、配置する事にしました。白地では寂しいので少し色味を持たせました。色に意味はありません。
チラシをつくる Step:08 〜裏面 レイアウトする〜
最初に大まかに情報を二つか三つのブロックにまとめます。ここでは「由来書き」「スケジュール」「主催者、問い合わせ」などです。
「由来書き」を右上から配置し、左に「スケジュール」。下に「問い合わせなど」となります。このチラシではどれが一番重要であるかというものはありません。むしろ「量」が問題になります。
最初に大まかに情報を二つか三つのブロックにまとめます。ここでは「由来書き」「スケジュール」「主催者、問い合わせ」などです。
「由来書き」を右上から配置し、左に「スケジュール」。下に「問い合わせなど」となります。このチラシでは重要度よりも、むしろ「量」が問題になります。
その量は文字の大きさ、字数などで変化しますが、このチラシでは「由来書き」がスペースのほとんどを占めると思われました。とにかく、それぞれの字体や大きさなどを仮に決めて配置してみました。
この時、最初に紙面を計画した時に比べると情報量がかなり少なくなっている事が分かりました。待ち合わせ場所の地図は無くなり、スケジュールも簡単なものになりました。その他の予定されていたテキストも整理されて少なくなっています。量で変化がなかったのは「由来書き」だけでした。
結果、スペースに余裕ができました。最初は「由来書き」に対して「御草庵跡」の画像を使いまわしましたが、今回は表面で省く事になった「久遠寺 本堂」の写真を入れる事にしました。これで、当初の紙面の計画が大幅に変わる事になったのです。
「直し」を行えば紙面が不潔になります。先にも述べましたが「お寺さん」の仕事では「清潔感」が大切になります。なので、決まってしまっている全ての文字の大きさや行間などを新しい構想のもとにやり直す事にしました。
レイアウト段階で、変更はよくある事です。そんなとき、付け焼き刃はいけません。今まで考えた事は一旦ゼロにする事が、次の紙面を清潔なものにします。決して「直し」と考えてはいけません。新たな仕事として関わる事が重要です。
ゼロにした紙面に変更部分を加えて新たに、大きく配分をします。以下の事は、その後、それぞれの文字の大きさなどを詰めていき、新しい紙面をつくり出します。
以下、割り充てたスペース内での情報のまとめ方の詳細です。順不同。
【久遠寺 本堂】
身延山のシンボルなので紙面のトップに配置します。テキストの変更などでスペースに余裕ができたので急遽入れる事になったが、できてしまうと最初から考えたもののように存在しています。
【由来書き】
チラシ ウラで一番広いスペースを使います。右上に配置しました。内容はこれから出向くところの情報です。参加申し込みの前か、団参のバスの中で読んで欲しいものです。
読み物なので9ポイント〜10ポイントくらいが適当だと思います。行間は半角アキよりも少し広め、全角アキよりも狭くするとよいでしょう
ここでは内容が久遠寺や御草庵跡の「由来」に関する事なので歴史感を出すために教科書体、楷書体などを使いました。
字体:新正楷書 大きさ:14.1111級 行送り:22.86歯 字詰(ほぼ42字)と行数(20行)は、左右幅:127.675mm 天地幅:123.317mmに箱組になっています。
【スケジュール】
「由来書き」の左に小さめのスペースを用意して配置しました。スケジュールの上には「由来書き」に関連した画像(御草庵跡)を置きました。
当初、スケジュールは倍ほどの文章量があってスペースは埋まっていたのですが、少しアキ気味になりました。これはこれでゆったりとした雰囲気になったと思います。
こうした情報はゴシック体がいいと思います。年配者を相手に仕事をするときに度々ある事ですが、情報部分の文字が小さくなっているので大きくして欲しいといわれる事があります。
確かに大小でいえば小さい文字は大きい文字に比べると読みにくくなります。だからといって大きくすればいいというものでもありません。大きさは他の情報との関係性で成り立っているからです。ここを変更すれば、それは全体の変更にもなりまねません。それと、これが重要な事ですが、可読性は文字の大小よりも太さに影響されます。従って7ポイントの文字を9ポイントにするよりも、細い文字を太い文字に変更した方が可読性が増します。
一般に読みやすさは太さよりも大きさに影響されると思い込んでいる人が多いので、大きくしたいのか、読みやすくしたいのかを確認する必要があります。
【問い合わせなど(インフォメーション)】
場所は紙面の下部になります。基本的には「スケジュール」と同じ扱いになります。しかし、ここには社名などが入るケースが多いので社名ロゴを使ったり、準じた扱いにするので社名などに似合った字体を使う事になります。
ここでは「日蓮宗東京都南部宗務所」という団体名を入れるので、存在感のある字体を使いました。
以上はチラシ ウラをまとめた時の思考と作業を辿ったものですが、もちろんこれが一度で収まったわけではなく、何度かの試行錯誤ののちに良い形を見つけ出しました。
【補足】「異体字」をつくる
最後の校正時に直しが出ました。できれば日蓮の「蓮」の字を「2点のしんにょう」にして欲しいという事でした。とても控えめな要望でしたが、一般の人でも名前の「吉」を「𠮷(俗称:つちよし)」に、「高」を「髙(俗称:はしごだか)」に変更して欲しいと強く要望される事があります。まして、「日蓮聖人」は「宗祖」です。「宗祖」の名前であれば、その思いは更に強いものと思われます。直さないわけにはいきません。
「2点のしんにょう」の「蓮」、こういう文字を「異体字」といいます。異体字は文字パレットで選ぶ事ができます。
または、IllustratorやInDesignでは、
・llustratorでOpenType書体を使用し、「蓮」を入力します。
・文字ツールで選択し、文字を反転させます。
・「書式」メニュー>「字形」を選択し、字形パネルを表示させます。 …
・字形パネルの「表示」から「現在の選択文字の異体字」を選択します。
で「2点しんにょう」の「蓮」が表示されます。
しかし、今回私が「由来書き」で使用した字体は異体字が登録されておらず、「作字」しています。普段はこうした事はほとんどありませんが、たまたま「異体字」の用意がない字体を使ったために起きた事でした。
作字は、縮小して使用する事を念頭にしています。従って縮小の際に端数が出ないように100ptで行いました。
・Illustrator上で「蓮」を印字する
・「蓮」をアウトライン化する
・レイヤーを複製して、下のレイヤーのをロックする
・レイヤーをプレビュー表示(⌘Y)にする
・ダイレクト選択ツールでしんにょう(またはしんにょうの一部)を選択し、平体(天地の変形)にする。この時、変形率はできるだけ小さくする。変形率が大きくなると全体のバランスが悪くなる。
・「点」をコピーして空いたスペースのバランスよいところにペーストする。
※天地の変形は文字全体にかけてもいけれど、部分ですめば部分を変形する事でバランスの違和感を少なくする事ができます。
このようにして作った「蓮」を使用するポイントに縮小して、チラシ「由来書き」に使われている「蓮」と置き換えます。
なお、我が社ではこうしたペラ(一枚もの)のドキュメントの入稿時には文字はすべて「ライン化」するのが習慣になっているので、ライン化された文字を置き換えます。
・作字した文字を本文の大きさに縮小
・該当の文字を拡大表示して、作字した文字を重ねる
・作字した文字をロックする
・元文字を選択して削除する
・ロックを解除する
以上で「蓮」は「2点のしんにょう」のものに置き換わります。
最後に「チラシ」作成後に「しおり」もつくったので画像だけ紹介します。
【後記】去年末と今年の年初に不整脈があり、検査で冠動脈狭窄が見つかった。冠動脈狭窄と心房細動(不整脈)の治療(カテーテル手術)を二度に分けて行う事になり、ブログの投稿も前回に引き続き、今回も間ができてしまった。
それに加えて、今回はついこの間につくった「チラシ」のレポートなので記憶が鮮明なために細かいところまで書いてしまった感がある。マニュアル的にまとめれば半分くらいになるかと思うが、「記録」的側面も持つブログなのでそのまま公開する事にした。結果、いつもの倍くらいのボリュームになってしまった。
ブログ上でも述べたが「チラシ」のデザインの評価は低く、話題も耳にする事は多ない。この稿を思いついた時に検索してみたのだが、ほとんどが印刷所がアップしているサイトで、ドキュメントのつくり方や入稿の方法だった。
そもそも、ネットで紹介されている「つくり方」のほとんどが「アプリケーションのマニュアル」で、ポスターのつくり方や装幀の仕方、考え方などを紹介した記事は見かけない。それはブログを商売にするにはそうした「技術」を述べた方が何倍も有効に違いないからだと思う。
話が逸れたが、そんな現状の中で「チラシのつくり方」をデザインの側面から語るのも意味があるように思う。従って、「アプリケーションの使い方」や「印刷入稿のためのドキュメント作成方法」は他のサイトに譲って、私のブログは「動機」「発想」「考え方」の記述を中心に語った。
ひと口に「チラシ」と言っても、今回のような限定された地域での、サークル内の案内のようなものや旅行会社のチラシのように全国に置かれる広告があり、コンサート、演劇など、嗜好が限定された人たちのチラシもある。そんな中で、私たちが日常で目にする事が多いのはスーパーのチラシではないだろうか。
スーパーのチラシは独特の世界をつくっている。私は過去何回か、それに似たチラシをつくった事があるが、ポスターとは違った難しさを味わった。知識や知恵を使うという意味ではポスターつくりよりも大変かもしれない。また、面白い仕事だとも思う。