温故知新!アイディアのヒントが得られるかも…

雑誌のロゴタイプ 『出版ニュース』の場合[前]

打ち合わせからアイディアは生まれる

仕事は「打ち合わせ」から始まります。私の場合はアイディアのほとんどがこの時に出ています。
社会生活では「コミュニケーションが大事」というけれど、仕事の上でひらめきを得るにも「会話」、とりわけ「聞く」ことが大切です。
もちろん、自分の考えを述べることも大切だけれど、相手に興味を持ち、それによって出てくる疑問を相手に問いかけることはもっと大事なのです。人は興味を持ってもらうと語りやすくなります。言葉数が多くなれば多くのヒントが得られます。そんな風にして会話で得た依頼主の「思い」や「考え」に思考を巡らせていると方向性が見えてきたり、ひらめきが得られたりします。

最近はプレゼンや打ち合わせで「文書」や「映像」を駆使して考えや計画を伝えることが一般的になりました。しかし、70〜80年代の打ち合わせにはそれはありません。文書だって用意されていない事は珍しくありませんでした。タイトルや著者名、出版期日などが箇条書きされた用紙を一枚手渡されるというのがほとんどでした。そんな打ち合わせの基本は「言葉」だったのです。言葉は「思い」や「考え」を行き来させるインフラ(架け橋)です。私はそんな打ち合わせからアイディアのヒントを得ていました。

以上が常々私が心がけている仕事の仕方でした。ところが、『出版ニュース』のリニューアルを依頼された時の私は、K氏ときちんとした会話をしていませんでした。

一般に雑誌のタイトル(ロゴタイプ)デザインはそれだけで依頼されることは多くありません。タイトルを有名な書家などに依頼する場合などを除いては、表紙のデザインとセットだったり、本文のデザイン(エディトリアルデザイン)を含めた雑誌全体のデザインと一緒に依頼されます。
この時の依頼は『出版ニュース』のリニューアルをだったので、タイトルデザインは表紙や本文と併せたトータルデザインの一部だったのです。だから、タイトルに関してだけの打ち合わせをしなかったのです。

編集者(依頼主)は締め切り日時、原稿料などと共に雑誌の「コンセプト」や「思い」を伝えてくれるものですが、この時のK氏からはわずかに「お願いできますか」と言われただけと記憶しています。
編集者の全ての人がきちんと要望を述べてくれるものではありませんが、K氏は中でも寡黙な人でした。多くを語らない人の中には、依頼する相手が著名人であったりすると、「要望」などをいうのは失礼だと思う人もいますが、K氏の場合は私に対する気遣いだったのかもしれません。私は「自由に作ってください(何でもいい)」と都合よく理解したのです。しかし、この「自由」が曲(くせ)者だったのです。

『出版ニュース』のタイトルデザインの場合、いろんな意味で「自由」であったと言えます。しかし、自由というのは手がかりさえ与えられないということでもあります。雲をつかむような仕事でもありました。結局、十分な打ち合わせを行わなかったために、少ない情報を元にして思い込みと勘に頼った仕事になりました。

この仕事よりも前、私は『ミステリマガジン』の装丁のリニューアルを手掛けています。その時の経験が良くも悪くも影響していました。詳細は後に「雑誌のロゴタイプ 『ミステリマガジン』の場合」で述べますが、当時のミステリマガジンの編集長S氏は、雑誌の理想の表紙(タイトルデザインも)は「変わらないこと」だと、その思いを熱く語ってくれました。それ以来、長く変わらない表紙、時間が経っても古くならないタイトルデザインは私の理想になっていたのです。

以上のような思い込みがあったのに加えて、自由を与えられていたものだから、いつものように打ち合わせで得た手応えのあるアイディアやイメージを持てないまま、『出版ニュース』のタイトルデザインは一時期迷走することになりました。
新しいロゴタイプを提示してもK氏はボツにすることはなく、良し悪しのコメントもありません。それが自由ということでしょうが、私には「もしかしたら気に入らなかった」のではないかという疑念が生じて、度々迷いの中で制作することになりました。
そして幾年かが過ぎ、何度かのリニューアルを経て『出版ニュース』のロゴタイプは完成したと言えます。結果的に、印刷物にしてプレゼンテーションを繰り返したようにも思えます。これ以上に贅沢な仕事はありません。忍耐強く見守ってくれたK氏には感謝です。

【次回投稿予定 9月15日】「雑誌のロゴタイプ 『出版ニュース』の場合[後]」では『出版ニュース』で採用された8種類のタイトルデザインのアイディアや技術などの概略を述べます。

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『出版ニュース』は日本出版配給(日配)が、1943年(昭和18年)から旬刊『新刊弘報』(しんかんこうほう)として発行したもので、その後、1949年(昭和24年)に発行元が出版ニュース社に代わり『出版ニュース』として発行されるようになった。『出版ニュース』は七十数年に亘りその役割を果たし、2019年3月下旬号で休刊になった。更に、出版ニュース社は情報が紙媒体からデジタルに移行して来たことと、長きにわたる出版不況の影響を被り2020年3月末をもって廃業した。

2019年3月下旬号 最終号

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